云南省中国茶の旅

文責:高月(がおゆえ)
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「云南省中国茶の旅 後編」に向けて

云南省中国茶の旅 前編」「云南省中国茶の旅 中編」に次ぐ特集第三弾。今回の訪問先は、2020年の世界遺産登録申請を目指し大いに活気付く景迈(Jǐngmài)山です。「普洱景迈山古茶园」の正式名称にて2013年1月29日、ユネスコ世界遺産暫定一覧に掲載。「景迈山古茶园」と近隣の農村集落を含む中心地、2,703.07ヘクタールが文化遺産の対象とされています。緩衝地帯の設定範囲は周囲14,000.21ヘクタール。世界遺産登録時にはこれら全区域の環境が保全されていく事になります。世界遺産への登録申請は毎年、暫定一覧の中から一国一推薦遺産のみ。地域と云南省では2020年、国からの推薦を目標として急速に環境整備が推し進められています。

5. 景迈(Jǐngmài)山

凡そ千年前と、云南省「新六大茶山」の中でも特に古い時代から茶葉の栽培がなされていた景迈山。行政区画としては「云南省普洱市澜沧(Láncāng)拉祜族自治县」東南部の「惠民乡」に属する地域に相当します。省内の近隣市街地、勐海の中心街からは北西に約80キロメートル。車で2時間強の位置となります。他の「新六大茶山」がいずれもシーサンパンナ「云南省西双版纳傣族自治州勐海县」内にあるのに対し、景迈山のみが隣の「普洱市」に移動しての訪問。茶山の西側はミャンマーとなります。

考証上、景迈山における茶葉の歴史は約2千年 。芒景の上座部仏教寺院「缅寺(Miǎnsì)」木塔にある石碑にはタイ語で西暦696年、すなわち1300年前から茶葉の栽培が始まったとの記述がなされています。当時はほぼ自給自足、その後も茶葉の交易は馬道の通っていた東南アジアあるいは南アジアとのみ。一つの転機は1950年の国慶節の北京。毛沢東国家主席に芒景布朗族最後の長より景迈山の古樹茶「小雀嘴尖茶」が紹介されます。葉は厚く銀色、先端の尖った珍品です。これ以降、輸送基盤の整備と共に国内での流通が急速に発展を遂げます。1966年には国営工場「景迈山惠民茶厂」設立、近代的な設備による中国茶生産も始まる事になります。

景迈山の古樹茶園は総面積で2.8万亩、うち栽培面積は約1.2万亩。行政区画上「普洱市澜沧拉祜族自治县惠民哈尼族乡景迈村民委员会」と同乡内「芒景村民委员会」の2つの村民委员会管轄区域をまたぐ16,173亩が「景迈芒景万亩古茶园」と総称されます。北西と南東に長い地形で、海抜は1,100メートルから1,662メートル。土地は北西側が高く、平均海抜は1,400メートルとなります。平均気温摂氏18度の亜熱帯モンスーン気候、年間1,800ミリメートルと降雨量はかなり潤沢。土壌は赤土です。域内には「景迈村民委员会」下の糯干、勐本、芒埂、帮改、笼蚌、笼蚌南座、「芒景村民委员会」の芒洪、翁洼、翁基、老酒房、那耐といった十数個の村落が点在。茶葉は布朗族と傣族により栽培。年間茶葉生産量は2,000トン、制茶の後に500トンが出荷されます。

茶園の大部分を占めるのが樹齢100年以上の古樹。景迈山では十分に揉捻するのが伝統的な手法、茶葉は黒く細長い形状に仕上がります。遮光された斜面で時間をかけて成長する為、苦みよりも渋め。素早く訪れ持続する甘い後味「回甘」と強い唾液分泌作用「生津」に特徴があります。茶湯はオレンジ色に近く、木や山といった野性の香りが強く感じられます。蘭の香り「兰花」は普洱茶の中でも最高峰の一つと評価されます。

中心地入口付近の飲食店。世界遺産登録申請に向け環境の整備が進みます。

文化遺産区域内にある10村落の内、傣族伝統村落4つと布朗族伝統村落5つが遺産指定要素。その中でも上座部仏教寺院の美しい景観で知られるのが傣族の「糯干(Nuògàn)古寨」村落、1枚目の写真です。2枚目の写真は村落北側にある丘の上、寺庙(Sìmiào)様式の上座部仏教寺院「翁基寺」から望む布朗族「翁基(Wēngjī)古寨」村落と壮大幽玄な云南の山々。寺院敷地内にも古樹があり、寺院用の茶葉が栽培されています。行政区画上はそれぞれ「普洱市澜沧拉祜族自治县惠民哈尼族乡景迈村委会糯干」「普洱市澜沧拉祜族自治县惠民哈尼族乡芒景村委会翁基」となります。

記録によると1139年には既に茶葉を取引、景迈山の古樹園の中でも特に名高い「景迈山大平掌古茶园」とその古樹。傣族200世帯により管理が行われています。茶園の海抜は1,500メートル前後、面積6,000亩。写真の幹の太さで凡そ樹齢300~400年程度の古樹と推定されます。高い所の枝は茶樹の高さを抑える目的で常に裁断。挿し木として新たに植え替えられます。やがて挿し木から芽が出始め、葉に成長。一般的に挿し木の成功確率は30%程度となります。

推定樹齢500年程度、茶葉量豊富な古樹。単樹での普洱茶加工にはこの程度の茶葉量が必要になります。単樹の普洱茶の価格は約5倍です。同じ古樹から「采摘」間近、あと少しで茶摘みできそうな一芯二葉です。

今回は景迈山で最初に創設された民間中国茶製造企業、名門「澜沧景迈长宝」社の本社兼工場を訪問。建築面積4,000平方メートル。敷地内には普洱茶の加工工場に商品展示室、茶室、景迈山茶文化展示、宿泊用客室、農場を完備。荘園様式が再現されています。

茶葉生産者として家の二代目となる黄长宝氏は1991年、思茅地区すなわち現在の普洱市第一号となる茶業の事業許可書を試験的に取得。1999年に「澜沧景迈长宝」社が設立されます。現在は第三世代、黄庆芬氏と黄劲松氏の姉弟で運営。黄庆芬氏は布朗族名「依萝」での活動での知られる人物です。2015年からは普洱市の筆頭国営企業「天下普洱茶国有限公司」社と戦略的提携、景迈山茶葉の普及と周辺環境の整備を推進します。

来る世界遺産登録申請記念として制作、2017年の新茶です。2017年の3月、「清明节」前に茶摘みされた「明前茶」です。并茶には約3か月後、2017年7月1日に加工と明記されています。遠くに熟普洱茶の香りを感じる新茶、生普洱茶です。

香り高い今年春、2019年の新茶です。晴天が多くゆっくりと成長した2019年の新茶は生産量も限られると同時に、ここ10年内で最も香りが強く出る傾向にあります。一煎目の口当たりはすっきり、三煎目から少し苦みと共に強い印象。「澜沧景迈长宝」社で摘まれるのは毎年、春の新茶のみとなります。

今年の春紅茶、滇红です。茶葉の色彩は黒。「香香甜甜」かつ果物の香りも芳醇、とても印象的な紅茶です。云南の大葉種を原料とすた白茶、「月光白」を開発したのも同社。伝統を継承すると同時に云南省茶文化の発展を牽引していく景迈山とその老舗生産者です。

澜沧景迈长宝
電話番号: 0879 752 2516
住所: 云南省普洱市澜沧拉祜族自治县惠民哈尼族乡景迈村民委员会芒埂组

以上三回に渡りお付き合いいただきました「云南省中国茶の旅」となります。早くに国内交易の始まった「澜沧江」すなわちメコン川東側の「古六大茶山」地区。旅の前編では所謂シーサンパンナの中心地、「景洪市」市街地を拠点に「基诺山」を訪問させて戴きました。ここでは少数民族「基诺族」農家における普洱茶の加工工芸について紹介。続く中編では「勐海」を拠点に「新六大茶山」に属する「布朗山」と「南糯山」を訪問。前者では「拉祜族」により茶葉の栽培が行われる「贺开村」へ、後者は観光地としても名高い「半坡老寨」を紹介させて戴いております。そして最終回となる後編では市をまたぎ、普洱市へ移動。世界文化遺産への登録申請を目指す「景迈山」について紹介させて戴きました。今回の取材で訪問させて戴けたのは計12の新旧各「六大茶山」のほんの一角。次回訪問の際には再度、新規情報の更新及び今回とはまた違った側面からの紹介をさせて戴ければ幸いに存じます。